腫瘍科
がん治療の流れ
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1.腫瘍か腫瘍でないか
体にしこりがあるのに気付いた時、まずはそれが腫瘍なのかそうでないのかを調べます。腫瘍でないものとして、血腫(血豆)、膿瘍、水疱、炎症、過形成などがあります。
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2.良性か悪性か
腫瘍と判ったら次はその腫瘍が良性なのか悪性なのかを考えます。良性腫瘍か悪性腫瘍かによって治療方針やその後どのように経過していくかの予測が変わってきます。
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3.治療方針の決定
腫瘍の種類や悪性度、発生場所、大きさ、転移があるかどうか、動物の全身状態などによってどの治療法が合っているかは変わってきます。
治療をする際には常に根治(完全に腫瘍をなくす)を目標にしたいのですが、悪性腫瘍の場合、根治が難しい場合もあります。そのような状況の時に、根治を目指してできる限りの治療を進めるのか、動物になるべく負担を掛けずにがんの進行を遅らせたり苦痛を和らげる緩和治療を進めるのか、という選択によっても治療方針は変わってきます。
さらに飼い主様の時間的経済的状況や治療に対するお考えなども加味した上で治療方針が決まっていきますので、腫瘍の治療法は飼い主様としっかりとお話をした上で決定させていただきます。
がん(腫瘍)とは
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体の中では毎日異常な細胞が生まれていますが、それらの異常な細胞は体の修復能力によって修復されたり、排除されたりしています。しかし、その修復能力を超えて異常な細胞が増殖を始めるとしこりを形成し、腫瘍となります。
異常な細胞が作られる原因には化学療法や外傷、日光、放射線、ウイルス、ホルモン、遺伝、年齢など様々なものがあげられますが、日光やホルモンなどは体にとって必要なものでもありますし、遺伝や年齢など避けられない原因もありますので腫瘍の発生を完全に防ぐということはできません。
また、修復能力は年齢によっても変化していくため高齢になるほど腫瘍の発生率が高くなっていくのです。
良性腫瘍と悪性腫瘍
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大きく分けると、良性腫瘍はできたその場所にとどまり、周りの組織を押しながら成長していく腫瘍で、手術での切除が比較的容易であったり、治療せずに経過を見ることもある腫瘍です。
悪性腫瘍はできた場所から周囲の組織に浸み込むように広がっていき、離れた場所に転移を起こす腫瘍で、治療が難しくなることも少なくありません。悪性腫瘍のことをがんと呼びます。
ただし、良性腫瘍であっても脳腫瘍などできた場所によっては治療が難しくなることもあります。
良性腫瘍のイメージ
悪性腫瘍のイメージ
がんの診断
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1.問診
しこりにいつ頃気付いて、どのくらいの速さで大きくなってきたか、あるいは体調や食欲などの変化についてお話をお伺いします。
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2.身体検査
しこりの大きさ、形、色、硬さ、可動性、表面の状態などを五感を使って詳しく診ます。さらにリンパ節の腫れがないかどうかや、全身状態の異常がないかどうかくまなくチェックします。
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3.血液検査、尿検査
全身状態を把握することで、他の病気を持っていないか、その後の治療を問題なく進められるかチェックする目的がありますが、時に腫瘍の存在が血液や尿に特徴的な変化を及ぼしていることがあり、そのことが診断の助けになったり、その後の経過予測に繋がることもあります。
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4.画像検査
X線検査、超音波検査、CT検査、MRI検査、内視鏡検査などがあり、これらの検査により原発巣がどこまで広がっているかを確認したり、周囲の組織への影響があるか、転移が起こっているかどうかをチェックします。当院ではX線検査と超音波検査を行っておりますが、その他の検査も必要に応じて検査機関をご紹介いたします。
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5.生検
しこりの一部を採って顕微鏡などで調べ、しこりが腫瘍かどうか、腫瘍ならばどのような腫瘍かを調べる検査です。
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1)針生検(細胞診)
しこりに注射針を刺して細胞を採り、検査する方法で、麻酔を使わずにできる簡単な方法ですが、一部の腫瘍を除き、確定できない場合や、腫瘍であると分かっても良性か悪性か判別できない場合も多くあります。
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2)コア生検(組織診)
しこりに注射針を刺して細胞を採り、検査する方法で、麻酔を使わずにできる簡単な方法ですが、一部の腫瘍を除き、確定できない場合や、腫瘍であると分かっても良性か悪性か判別できない場合も多くあります。
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3)切除生検(組織診)
手術で切除した塊を検査に出して確定診断を行う方法で、通常は全身麻酔をかけて行います。診断精度は最も高く、同時に腫瘍の広がりや悪性度の判定も行うことができます。取り切れていればそのまま治療終了となることもありますが、取り残しがあると再手術や他の追加治療が必要になります。
①②③① 針生検
② コア生検
③ 切除生検
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検査は必ず全て行うというわけではなく、どの検査を行うかは飼い主様との相談によって決められます。
生検は、当院では、まず針生検を行ってからその後の診断や治療の方針をご相談させていただく場合が多いです。
がんの治療
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1.手術
手術は転移を起こしていない腫瘍の場合、最も効果的な治療法です。ただし、取り切れなかった場合には再手術や補助療法が必要になります。逆に根治を目指して正常な組織を大きく切除すると、後遺症が残ることもあり、どこまで切除するのかという判断は重要になります。
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2.放射線療法
手術と同様に局所的な腫瘍に対して効果の高い治療法です。単独で使われたり、手術と併用して使われたりします。
専門の医療機関での治療となりますので、必要な場合にはご紹介させていただきます。 -
3.化学療法(抗がん剤)
化学療法は注射や飲み薬などの抗がん剤を使って行う治療法で、全身性の腫瘍、特にリンパ腫などの血液系の腫瘍に対しては効果が高いですが、固形の腫瘍に対しては十分な効果の得られないことが多くあります。
使う抗がん剤の種類によって治療回数や方法、副作用なども変わってきます。 -
4.その他の治療法
免疫療法や温熱療法などがありますが。放射線療法や化学療法に比べて効果が不確かな部分のある治療でもあります。
がんの治療法の選択においては、腫瘍の種類や悪性度、転移の有無、動物の年齢、全身状態などから治療の目的が根治であるのか緩和であるのかを考え、さらに飼い主様の時間的・経済的状況なども考慮して決定いたします。それぞれの治療法のメリット・デメリットや費用などもしっかりとご説明いたしますので、分からないことはお気軽にご相談ください。